魔女は言いました。お礼に魔法薬を作ってやろう。何か希望を言うがよい。



僕は言いました。惚れ薬を作ってくれないか。大好きな、大好きな人がいるんだ。



ところが魔女は言いました。魔法薬で人の心を動かすのは難しい。それは魔法の分野の話だ。しかし魔法は、他人の為に使うことが出来ないんだ。自分の為にじゃないと、魔法には力がこもらないんだ。ワタシはあんたにお礼がしたい。なんとか魔法薬で済むような希望を言ってくれないか。



なんとか僕等は、知恵を絞りました。惚れ薬は無理だけど、飲ませた相手の体調を変えたりすることは簡単だ。つり橋効果というものを知っているか?心臓の鼓動が激しい時、脳が恋をしていると勘違いするという奴だ。それで相手の女性の鼓動を支配して、恋に落とすことは出来るかもしれない。



僕は言いました。そんなの勘弁だ。僕といる時に彼女の心臓がずっとバクバクいってたんじゃ、恋を語らったりも出来やしない。心不全で死んでしまうかもしれないじゃないか。それだったらこうしてくれ。僕と衝突した時だけ、相手の鼓動が早まるようにしてくれ。それなら、僕は彼女と街角でぶつかって恋に落ちることが出来る。漫画とかによくあるアレさ。遅刻しそうな彼女。曲がり角でぶつかった相手。恋に落ちる。つまりそうゆう寸法さ。



魔女は僕用の薬を作ってくれました。これで僕にぶつかった人は、すべからく僕に恋するというわけです。街中で、電車の中で、体育の授業中で。チャンスはいくらでもあります。効果の信憑性は低いですが、何度も繰り返せばいつか成功するでしょう。なにより、なにかしらの効果があるというだけで僕のような勇気の無い人間でも彼女に当たっていける勇気が湧くというものです。まさに彼女に当たっていく、というわけです。





彼女が死んだのは初SEXの晩でした。



寝顔は幸せそうでした。