冷凍庫に入ってる、あの氷を作る皿って凄くないすか。製氷皿っていうんですかあれ。あの発想。「プラスチックの皿で氷を作ったあとに、両手で端を持ってぐりぐりすると氷が飛び出てくる」っていう、なんというか機能としてあまりに偶然に頼りすぎているというか、漠然としすぎているというか、見るたびにいつも不思議な気持ちになる。いいのかそれでと。思い付いたの小学生じゃなかろか。しかしながら、あれほどに単純な作りでありながら「上手く氷が出てこなかった」などという事故の発生率の少なさ。奴は時に重力さえも味方にし、職務を遂行する。発想はアレかもしれないが、あの形状に仕上げた人は確実に天才だと思う。そういえば大昔には金属製の製氷皿ってあったよね?魚の骨状に仕切り板が張ってて、レバーみたいなのをカシャンと切り替えると出来た氷が取り外し可能になる奴。僕はあれをプラスチックのものよりグレードの高い製氷皿なんだと思っていた。イメージ的に、プラスチックの製氷皿で出来た氷はカルピスに使うものだとすると、金属性の奴はブランデーとかに使う氷というような感じだった。しかも我が家には洋酒なんか飲む人間がいなかったのでお客様用のイメージだった。所詮、プラスチックの奴は新しく出てきた新参者だったし、孤高の金属製製氷皿には到底敵わない存在だった。実際に金属製製氷皿のメカっぽさは素晴らしく僕の心を捉えたし、いつも上手に氷を作ることが出来ないところなんかも、僕のような子供には到底扱えないフレキシブルの足りなさのように思えて好ましかった。いつの日か僕もと思っていた。そして時は流れ、今にして思う。あの製氷皿は、やはりただ不便なだけだったんだ。出来れば死ぬまで気付きたくなかった。さよなら僕の金属製製氷皿。かっこよかった金属製製氷皿。